バカな男が勝手にやった

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バカな男が勝手にやった

「今着いたよ。」
「ありがとう。でも無理はしないでね。」

 

電話を切る。
まもなくエレベーターが上がってきた。
真美は非常階段の入口横のくぼみにいた。
ここからは事務所とエレベーターが見渡せる。

 

吉岡が出てきた。
緊張しているように見える。
顔が白い。

 

吉岡は真美のほうには目もくれず、真美が教えた通りに事務所に向かいドアの前に立ち止まった。
もめ事が始まれが通報すればいい。
これで2、3日店長は忙しいはずだ。
その間に荷造りを済ませて寮を出ていこう。
気づかれないだろう。
次の店が見つかったら、心機一転頑張るんだ。

 

真美は村井の女だった
そして、売春させられていた。
フリーの客が来ると、村井は必ず真美を紹介する。
そして
「本番できますよ」
と耳打ちする。

 

真美は客に本番を求められたら断れない。
それが村井が真美に客を回す条件だからだ。
そしてリピートしてもらえる。
こうして真美は店のNo1の座に君臨することができた。

 

父親が作った借金を真美が返している。
父親は母親と真美を置いて逃げ出した。
母親は身体を壊し、寝込んでしまった。
金を返すためだ。
仕方がない。
そう思っていた。
言い聞かせていたが、終わりが近づいていた。

 

他の女の子が売春のことを気づき始めているのだ。
掲示板にも書かれるようになった。
この店にはもういられない。
こんなことしていていいわけがない。

 

身体もボロボロだ。
なにより心が限界だった。

 

もうやめたいと村井に言ったらひどく殴られた。
逃げるしかない。
そして決心した・・・。

 

ドアが開く。
何か話している。
今のうちにエレベーターで降りよう。
エレベーターはいつの間にか他の階にいた。
急いで呼ぶ。
事務所のほうでは話し声が聞こえるが内容まではわからない。
エレベーターの移動が遅い。
現在位置を示すランプが近づく。
あと少し・・・あと1階・・・

 

怒鳴り声、そして悲鳴がフロアに響いた。
誰かが走ってくる。
慌てて非常口に戻る。
くぼみに身体をひそめる。

 

走っているのは吉岡だ。
エレベーターが開いた。
そしてまた閉まろうとする。
吉岡がボタンを連打して閉じてしまうのを阻止する。
そして乗り込んだ。
エレベーターは何事もなかったかのようにおりていく
フロアが静寂に包まれた。

 

事務所に目をやる。
ドアは半開きだ。
恐る恐る近づくと村井が倒れてドアに挟まれていた。
床には血だまりができはじめていた・・・

 

吉岡が走ってきて予定が狂った。
建物の外で公衆電話からかけるつもりだったが、それでは時間的につじつまが合わなくなる。
仕方なく非通知にして自分のスマホから110番した。

 

「もしもし、マンションから男の人の怒鳴る声が聞こえるんですが・・・」

 

あとは警察に任せればいい。
私にはなんの関係もない。
吉岡が勝手に刺したのだ。
私はなにも知らない。