ゆがんだ正義感

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ゆがんだ正義感

「相談があるんですけど、今度仕事抜きで会えませんか?」
「えっ、いいけど。」

 

風俗嬢から店外を誘われた。
これって直引きってやつだよな。
店に禁止されてないのか?
本当にただの相談なのか?

 

いろいろな考えが頭をめぐった。
そして待ち合わせ当日、本当に彼女は待ち合わせ場所に現れた。

 

「どこに行く?」
「ゆっくり話もしたいし、吉岡さん家でいいですよ。」
「えっ!?」

 

ひょっとして高額な金銭を要求されるのか?
のこのこ出てきたことを後悔した。

 

真美は最近のお気に入りだ。
19歳なのにとてもしっかりしている。
そんな彼女に相談だと言われて信じたのに・・・。

 

彼女に言われるがまま自宅に戻ることにした。
念のためスマホで会話を録音しておこうか・・・
そんなことを考えているとベッドのへりに腰掛けた真美が切り出した。

 

「私店長と付き合ってるんです。でももう別れたくって・・・」
「店長と付き合ってるんだ。そうなんだ。ハハハ」

 

男はいるだろうと思っていたが、店の人間と付き合っているのはそれなりにショックだった。
今のは奇妙な笑い顔だったかも知れないと思った。
ハッと我に返る。
部屋の中央に立ったままだった。
慌てて真美のとなりに座る。

 

「私、このお店が初めてで店長にいろいろと面倒みてもらったんです。面接のときの講習も店長が相手だったし。いきなり裸にされて嫌だったんですけど、断れなくて・・・。」

 

店長は村井というらしい。
いつの間にか付き合うことになったそうだ。
彼女のマンションに村井が通っているそうだ。
何度も別れを切り出したそうだが、No1になれているのは村井が客を回したりしているからで別れたらそれはできなくなると言われたらしく、クビもほのめかされたようだ。
彼女には借金があり、辞めることもできず村井の言いなりになっている。

 

「どうして僕に・・・?」
「だって吉岡さんやさしいから・・・」

 

目に大粒の涙がたまっていく。
あふれそうになる前に彼女はだきついてきた・・・。

 

それから彼女と付き合いだした。
風俗嬢に直引きされて会ったのはルール違反だったが、彼女もお金に困っている。
すでに“彼女”なんだから帰りのタクシー代ということで毎回店の2時間コースの料金と同じ額を渡すことで気持ちに折り合いをつけた。

 

実は10年ぶりにできた彼女だった。
とてもうれしかった。
それに反して彼女はとても困っている。
会うたびにどんどん疲れた顔をして、泣いてばかりいる。

 

僕には金を渡す以外にできることはないのか?
そんなことは、ない!
自分の彼女も守れないなんて男のすることじゃない。

 

スマホが鳴った。
「デリヘル●●●店長の村井と言いますが、今いいですか?」
「はい。」
「あんた、うちの女の子を口説こうとしてるでしょう?それってストーカーだよ?」
「ストーカー?ハハハ」

 

何を言ってるんだよ、こいつは?
俺は真美の彼氏だぞ。
お前のせいで真美が迷惑してるんだ。
ちょうどいい話をつけよう。

 

話があるので今からそちらへ伺います。

 

タクシーを拾って乗り込んだ。
事務所の場所は真美から聞いていた。
ふとタクシー代を確認しようとポケットを探した。
胸のポケットに固い感触がある。

 

真美からもらった誕生日プレゼントの万年筆だ。
お金に困ってるのに優しい女の子だ。
ぐっと万年筆を握る。
真美のためだ。
僕がしっかりしないと・・・。

 

事務所の部屋番号も真美が教えてくれた。
ドアをノックする。
のどがカラカラだった。
村井がいきなり殴りかかってきたらどうしよう。
自然と万年筆を右手に握っていた。

 

ドアが開く。
「お前が吉岡か?しつこいんだよ!帰れ、帰れ!」
高圧的な奴だ。
大声を出せばいいと思っているのか?

 

右手の万年筆をチラと見て笑った。
「なんだそれ?それで俺を刺すつもりか?だったらせめてナイフにしろよ。」
真美からもらった万年筆を笑いやがって。
真美を食いものにしやがって・・・

 

・・・

 

「なにすんだよ?」
村井の大声で我に返った。
腹を押さえている。
黒いものが刺さっていた。
ドロリと血が床に落ちた。

 

「ひぃい!」

 

なにがあったんだ?
怖くなってもと来た道を走り出した。
後ろでなにか物音がしたが振り返らなかった。

 

ちょうどエレベーターが閉まろうとしていた。
急いで飛び込んだ。
中には誰もいなかった。